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ロシア語訳『源氏物語』の研究

― <語り>・和歌・もののあはれの観点から ―

著者:土田 久美子

価格(税込)¥4,860
サイズA4
ページ数425 ページ
発行年月2015年 12月
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商品の説明

本論は、「ロシア文化を背景とするロシア人翻訳者が、『源氏物語』をどのように理解したのか、そしてその『源氏物語』観に基づいてどのような翻訳テクストを生み出したのか」という問題意識に沿って、タチアーナ・リヴォヴナ・ソコロワ=デリューシナ(1946-)による『源氏物語』のロシア語完訳の特徴を明らかにするものである。
筆者は修士課程在学中の1997年6月から1998年3月までロシアのプーシキン大学、及び博士後期課程在学中の2001年4月から2002年2月までモスクワ大学に留学し、その間にデリューシナ氏と共にロシア語訳『源氏物語』を検討する機会を得た。翻訳者本人の証言を資料として、ロシア人翻訳者が『源氏物語』を読んで何を考え、それがどのように翻訳テクストに反映されたのかを検証する。
具体的には<語り>、和歌、「もののあはれ」の観点から、原文はもとより英・仏・独・中国語訳とも比較しながら論じる。
『源氏物語』は語り手が話の内容を語る散文部分と、作中人物が詠む和歌の部分から構成されている。そして本居宣長が提唱して以来、「もののあはれ」は本物語の中心となる美的理念とみなされている。
 筆者が原文とデリューシナ訳を読み比べた結果、やはり特にこの三つの観点に同訳の特徴が表れていると判明した。
 そのため、まず第一部で『源氏物語』の散文部分における<語り>の手法、第二部で和歌のリズムと修辞技法という形式面から考察を加え、そして最後の第三部で物語全体を貫く「もののあはれ」の美的理念の面に焦点を当てる、という順序で三方面からロシア人翻訳者デリューシナ氏の『源氏物語』理解及びそのロシア語訳の特徴を解明する。
 従って、本論は三部構成である。
本論の第一部では、<語り>の手法に着目する。デリューシナ氏は原文の<語り>の手法をどのように理解し、どのように訳文に移したのかという問題である。デリューシナ氏も翻訳にあたり、これらの手法を特に重視していた。よって第一章で人物呼称、第二章では時制の問題を取り上げ、これらの翻訳方法にもデリューシナ氏の『源氏物語』理解が反映していることを示す。
第二部では、『源氏物語』の不可欠な要素でありながら翻訳が容易でない和歌に、ロシア人翻訳者がどのように取り組んだのかを検証する。第一章では、まず和歌の31音のリズムが、どのようなロシア語の詩のリズムに移しかえられているのかという問題を扱う。第二章では、和歌の修辞技法に焦点を当てる。デリューシナ氏はこうした手法にも『源氏物語』の重要な特質が表現されていることを読み取っていた。その理解に基づき、修辞技法を含む和歌をどのような方法で翻訳したのかを明らかにする。
第三部では、「あはれ」、「もののあはれ」の訳語の問題を論じる。「もののあはれ」は『源氏物語』の中心となる美的理念であるだけでなく、翻訳研究にとしても興味深い語彙である。外国語への等価な翻訳が困難であると考えられるからである。
まず第一章では、日本における「もののあはれ」認識と照らして、デリューシナ氏が「もののあはれ」の概念をどのように理解しているのかを明らかにする。第二章で、その「もののあはれ」理解を基に『源氏物語』本文で「もののあはれ」、「あはれ」にどのようなロシア語の訳語があてられたのかを検討する。
最後に結論をまとめる。
 本論により、デリューシナ氏の認識が訳文に反映されたところは、英訳、仏訳、独訳、中国語訳には見られない、あるいは大多数の他の外国語訳には見られない特徴となっていたことが明らかになった。氏の『源氏物語』理解の独自性が、翻訳テクストの独自性を生んだと言える。




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