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ニーチェ研究
 ディオニュソス的なものと永遠回帰



著者:青木 純一

価格(税込)¥4,860
サイズA4
ページ数227 ページ
発行年月2016年 1月
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商品の説明

本論文は、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(1844-1900)の哲学的思索を、「ディオニュソス」あるいは「ディオニュソス的なもの」の概念と永遠回帰思想との連関を軸に、探求することを主眼としている。「ディオニュソス」あるいは「ディオニュソス的なもの」をニーチェ哲学全体の主導概念とみなすことによって、『悲劇の誕生』(1872)に代表される初期の著作・論文で提示された思想から、後期の著作と遺稿断片に現われるニーチェ思想の主要な諸概念(永遠回帰、力への意志、一切の諸価値の価値転換の試み)の意義とそれらの間の連関までを、統一的に解明する見通しが得られる。その際、最も問題となるのが、「ディオニュソス的なもの」と永遠回帰思想との連関である。
「ディオニュソス的なもの」という概念の重要性は、主に「個体性の原理の解体-再構築」という論理的契機に見出される。「ディオニュソス的なもの」という概念が含む脱・個体化の契機は、個体性の否定的な破棄に帰結するのではなく、個体性の意味を新たに肯定的に根拠付けるものへと発展していく。『悲劇の誕生』においてはまだ無差別なカオスの根底(根源的矛盾)として消極的に──個体化の原理の破棄という否定的な仕方で──把握されていたディオニュソス的な世界は、永遠回帰のインスピレーションとともに、カオスとしての世界そのものの有する厳格な必然性、すなわち力の回帰の必然性という契機を内包するに至る。その結果、ディオニュソスの概念は、世界の必然的な力と時間との無制約な肯定の原理の意味を担い、そのような世界の肯定を思考する人間の新たな個体性の意義を提起するのである。
序文では、「ディオニュソス」あるいは「ディオニュソス的なもの」の概念の上述した論理的契機と、その論理の境域において永遠回帰のインスピレーションが、単に静的な世界観ではなく、実験的に多様な帰結を産出する思想、生成的な教説へと展開する過程について、まずその論理的な輪郭が提起される。さらに、先行研究における「ディオニュソス的なもの」の概念の特徴付けを歴史的に追跡し、この概念の重要性が徐々に認知されてきた経緯を明らかにする。
第一章では、『悲劇の誕生』において提示された「ディオニュソス的なもの」の概念が包摂する諸契機が分析される。それらの契機を明らかにするために、「ディオニュソス的なもの」を芸術、苦痛、学問、道徳との連関で分析する。芸術と苦痛に関しては「アポロ的なもの」、学問に関しては「ソクラテス的なもの」との関係において、道徳に関してはキリスト教と対比しながら、分析を進めている。全体としてこの章は、ニーチェ哲学の〈美学〉の側面に定位しているが、問題設定の仕方は後期の思想をあらかじめ射程に入れている。
第二章は、ニーチェの世界概念を、「ディオニュソス的なもの」の概念が包摂する諸契機の展開として考察する試みである。この展開の具体化として、ニーチェ思想における独自な力の概念の特性が考察される。途中、カントの判断力の原理との比較が試みられるが、この試みがこの章の全体的意義を示している。すなわち、この章ではニーチェの力の概念が、世界解釈のための構想力、あるいは判断力の機能として認識され、呈示される。また、ディオニュソスの概念の「神性」の意味についても、あらためて若干の考察を加えている。
第三章では、永遠回帰のインスピレーションの経験が「ディオニュソス的なもの」の孕む問題境域の内部で思想化されてゆく過程が、インスピレーション当時の遺稿断片および『愉しき知識』(1882)から『ツァラトゥストラ』(1883-1885)までの著作の内在的な読解を通じて考察される。この章では特に、個体性からの超出という理論的契機の具体的な意味が取りあげられる。また、私はこの章で、永遠回帰という事態が認識に対して持つ意味を、ニーチェの哲学的思惟における〈死〉の問題という観点──この観点はニーチェの当時の遺稿と著作から明瞭に浮かび上がるものである──から照らし出すことを試みている。この章は基本的に、ニーチェの理論的認識の最も原理的な部分を、認識そのものの意味と同時に、取り扱っている。
最終章である第四章においては、一切の諸価値の価値転換の試みとニヒリズムの概念の解明に焦点が当てられているが、その解明の方向性は、第三章で論証したディオニュソス−永遠回帰思想にもとづいている。なぜなら、一切の諸価値の価値転換が文字通り全的な「諸価値の価値」(『道徳の系譜学』1887)の転換と呼びうるためには、それ自体としては(外側からの、また内側からアプリオリに前提された)どんな価値付けをも凌駕するディオニュソス-永遠回帰的な世界のヴィジョンの創造を前提とし、この世界総体の全的肯定という思考においてはじめてニーチェは、従来の価値や意味の単純な変更という次元ではなく、世界そのものの価値創造、意味生産性の次元にまで踏み込むからである。なおこの章では、第一章第一節で提起された芸術、苦痛、学問、道徳という観点が価値転換思想との連関で改めて取り上げられるが、その際、道徳の問題は「主体化」の問題へと変換し、ニーチェの価値転換の試みの中で新たな人間類型の創造という意義を担うことが論証される。



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