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J. ローゼンミュラーの声楽作品研究

―その個人様式と越境性―

著者:園田 順子

価格(税込)¥4,950
サイズA4
ページ数379 ページ
発行年月2017年 5月
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商品の説明

17 世紀に北・中部ドイツとヴェネツィアで活躍したドイツ人音楽家ヨハン・ローゼンミュラー。彼の音楽の独自性とは、宗教対立が激化した時代に、ドイツ・プロテスタント地域出身の音楽家でありながら、相対する文化圏であるイタリア・カトリックで長らく作品を創作したところにある。その 20 年以上にも渡るヴェネツィア滞在にもかかわらず、彼の作品は従来の研究において、一面的にドイツ・プロテスタント地域の歴史的背景の中で位置づけられることが多かった。本研究では、ドイツ・プロテスタント、及びカトリック地域における音楽の両方面からローゼンミュラーの声楽作品を考察する。それによって、一つの国や宗教という枠組みの中には固定できない、彼の音楽作品の個性とその歴史的意義を明らかにすることが本研究の狙いである。
本論文は 3 部分から成る。第 I 部は、研究の前段階としてライプツィヒ期の作品を概観した。ライプツィヒの特徴が、ローゼンミュラーのヴェネツィア期の作品における独自性の、一つの要素を形成していると考えられるからである。第 II 部はヴェネツィア期の作品とその背景を対象とする。しかし厳密に言うと、どの楽曲がヴェネツィア期の作品に属するのかは、手稿譜史料の作曲年月日に関する情報の不足により明らかではない。そこで、まずヴェネツィア典礼における適用性という視点から、ヴェネツィア期の作品を選別していった。その後、それらの作品の音楽様式を概観し、特に興味深い様式的特徴が見られた楽曲ジャンル、詩篇曲(詩篇 110、111、112、126)に的を絞って楽曲分析を行った。詩篇曲はその特色の違いから、4 つの作曲時期に分けられる。これら各時期の変遷過程について、最後に作曲手法と聖書解釈の観点から考察した。末尾の章第 III 部は、作品受容からローゼンミュラー作品の音楽史的意義を探るものである。その際に、ドイツ・プロテスタント地域の音楽のみならず、ヴェネツィアでのローゼンミュラー作品の位置づけについても考慮に入れた。
考察の結果、以下の点が明らかになった。音楽様式の面では、すでにライプツィヒ時代にイタリア音楽の傾向が強く認められたが、言葉と音楽の関わり方及び解釈の点で、ドイツ・プロテスタント音楽の特徴が見られた。とりわけ、イエスへの愛情表現を強調した手法は、初期敬虔主義の流れを汲むものであった。こうしたライプツィヒ期の特徴は、ヴェネツィア期における創作の4 段階分類の中で、とりわけ第 1 期と第 2 期の作品に顕著に現れていた。第 2 期の作品にはルターだけでなく、カトリックの聖書解釈も見られ、ルター派地域出身の音楽家でありながらもカトリック教会のために作品を書いた、ローゼンミュラーの葛藤と器用さが垣間見られた。第 3 期と第 4 期の作品はカトリックの聖書解釈やその音楽を全面的に反映していた。但し第 3 期の作品では、確かに聖書解釈はカトリック的であったが、音楽手法の点ではシュッツの伝統を受け継いでいる箇所もあった。第 4 期になると、ライプツィヒ期以来の特徴であった、個々の言葉を直接的に処理するフィグーレンレーレやマドリガル技法は特定の箇所のみに限定され、むしろ書法や構造による間接的な歌詞と音楽の融合が見出されていた。さらに、言葉の意味内容から解放された音楽の芸術性がより追求されている部分もあった。
こうした変容性、両面性、多様性がおそらく、彼の作品が様々な地域で好まれた理由であろう。すなわちローゼンミュラーの作品は、ドイツ・プロテスタント地域の作曲家だけではなく、ヴェネツィア人作曲家にも影響を与えた可能性が明らかになった。
以上の考察から、ローゼンミュラーの音楽における越境性が照らし出されたのと同時に、この当時の二分化された両文化圏における、音楽の流動性が浮き彫りになったと言えよう。


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