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中国語会話書から見た近代日本語の研究



著者:園田 博文

価格(税込)¥4,950
サイズA4
ページ数330 ページ
発行年月2019年 5月
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商品の説明

これまで、中国語会話書は、中国語教育史や中国語学の分野でしか取り上げられてこなかった。本研究では、この中国語会話書を日本語学の分野で日本語資料としてどう位置付けるかについて論じた。中国語会話書とは、「学習書」「時文・尺牘」「語彙・辞典」等に細分される「中国語関係書」のうち、会話学習に関する例文集が載っている資料を指す。中国語文の訳文として日本語文が掲げられているもののほかに、日本語の発想で記された日本語文とその中国語訳が記される資料もある。対象とする時期については、明治初年から昭和20 年までとした。
 序章および第1 部では、中国語会話書を分類し、主要人物7名を取り上げるとともに、独自の時期区分を行った。背景としては、明治の初め、中国語を教えた教師は長崎唐通事であり、中国語を学んだ生徒は、長崎唐通事の子弟や漢学を学んだ者であった。中国語会話書も初めは、長崎唐通事に繋がる者や士族、漢学者の子息が著したものであった。留学生として清国に派遣された者もいた。中国語会話書を著した人物の背景を知ることで、たとえば士族の言葉に通じるものか否か等を知る手がかりが見出せる。
 第2部では、T期(明治初年から明治20 年代中頃まで)に当たる草創期の中国語会話書について分析を行った。第3部では、U−1期(日清戦争前夜から日露戦争前後まで)に当たる確立前期について、第4部では、U−2期(日露戦争前後から第二次世界大戦終結まで)に当たる確立後期について見た。第5部では、T期、U期を通して、人称代名詞と当為表現について考察した。本研究の成果は、資料(中国語会話書の分類を含む)、場面、語法・語彙に大別できる。
 まず、資料研究について見ると、第2部第1章で行った『問答篇』『語言自邇集』と『総訳亜細亜言語集』『参訂漢語問答篇国字解』の対照から、日本語の発想による中国語原文改変の実態を明らかにすることができた。このことから、訳述である日本語の性格を考える手がかりが得られたことになり、意義が認められる。また、第3部第2章においては、日清韓会話書の影響関係や成立過程を解明することができた。これら第2部・第3部における成果は、中国語教育史等の先行研究では明らかになっていなかった点であり、資料研究という点で重要であり、また、ここに現れる日本語の分析を行う上でも意義のあることである。資料に関連し、中国語会話書の分類を試みた。中国語文をもとに日本語文を作ったものについては、直訳度を考えることができる。これについては、第5部第1章第1節で人称代名詞の直訳度について、洋学会話書との比較を行いながら論じた。一方、日本語文をもとに中国語文を作ったものに関しては、さきに触れた改変の場合のほかにも、もともと日本語文が先である資料もある。この分析は、第3部第1章第1節で行ったが、今後の研究課題である。
 次に、場面について述べる。もともと会話書は、豊富な場面における会話を載せている点に特徴がある。第4部で取り上げた『官話指南総訳』では、小説類には現れないような公的交渉の場面が数十ページに亘って現れている。しかもこのような場面に「しめ」「し」「たる」等の文語が現れている。文語が混じることについては種々議論がなされているが、実際に口語的な文脈の中に文語を交ぜて使ったと考えてよい。このような考察は中国語会話書を使わなければできないことであり、日本語資料として中国語会話書が不可欠であると言え、本研究の意義は大きい。第3部で取り上げた資料には、小説等では限定的にしか見られない戦争に関わる場面の表現や語彙が現れている。軍隊言葉や軍用語を考える際に中国語会話書を見ずに論じることはできない。
 さらに、資料、場面を踏まえた上で、文末待遇表現、助動詞「です」、指定丁寧表現と形容詞丁寧表現(「明るいです」等の言い方)、「に」と「へ」の使い分け、当為表現、人称代名詞等問題となる語法について調査し分析した。たとえば、『総訳亜細亜言語集』に助動詞「です」が1040 例も現れていたことの指摘は、明治10 年代における助動詞「です」の使われ方を考える上で意味のあることである。また、『官話急就篇』総訳本4種における二重否定型当為表現の調査結果は、先行研究による国定読本の調査結果とも異なり、昭和初期の多様性を解明する上で欠くことのできないものである。語彙については、九州方言語彙、植物語彙について触れたほか、親族名称や漢語で特徴的なものがあることを指摘した。
 本研究で明らかにした点とその意義は以上である。本研究から発展する課題は多数あり、さらなる研究が必要である。


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