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イノベーションシステムと産学官連携



著者:曹 勇

価格(税込)¥4,950
サイズA5
ページ数368 ページ
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商品の説明

本書の目的は,知識社会における産学官の連携活動を,ナショナル・イ
ノベーション・システム(NIS:National Innovation System)の視点から考察
を加えることである.具体的には,第一に,知識社会へ移行する過程で,
一国のイノベーション・システム構築に産学官それぞれの果たす役割がい
かに変容しつつあるのか、また3者間での相互関連・影響しうるプロセス
がいかに進化していくのかを、NISの視点から考察すること,第二に,そ
れによって,特に研究面で産学間での知識フローがどのようなメカニズム
で進められているのかを,日米の実態分析をもとに解明すること,第三に,
そのメカニズムをより効果的に推進していくにあたって技術移転機関
(TLO:Technology Licensing Organization)がどのような役割を果たしてい
るのかを実地調査によって検証すること,の3点である。
本書は,三部9章の構成をとり,その概要は以下の通りである。
第1章では,序論として、研究の背景を筆者の持つ問題意識から考察し,
本論文の課題・目的・視点・分析方法を明らかにすると共に,論文の構成・
概要・特徴を要約した.第一部(第2章,3章,4章)では,NISの定義・
枠組み・分析アプローチだけではなく,その形成過程においてこれまで提
案された様々なモデルを体系的に検討・分析した。特にNISと知識生産の
モード論との接点を見出し,両者の補完関係を明らかにすることによって,
そこから導かれた含意に基づいて2つの仮説を提示した。第二部(第5章,
6章)では,第一部で提示した仮説1の検証を行った。イノベーション・
システムにおける産学官連携の果たす役割について,日米の歴史的経緯を
考察し,特に1990年代以降の産学間での活発な知識フローの促進メカニ
ズム(本書では「三位一体メカニズム」と呼ぶ〕が.@研究協力,A技術
ライセンス,B大学発ベンチャー創出という3本柱から展開されてきてい
ることを,日米の実態分析をもとに解明した。第三部(第7章,8章)で
は,仮説2を検証するために,産学間の三位一体メカニズムをより効果的
に推進するにあたって,特に技術移転機関(TLO)の果たす役割を中心に
日米の取り組みを例にさらに議論を進めてきた。最後の第9章は論文全体
の総括であり,第2章から第8章までの分析で見出された結論,及び途上
国に対する政策含意を明らかにするとともに,本研究で残された課題と限
界,および今後の更なる研究の展望を示した。
従来の研究に比べて本研究は次の5つの特色を持っている。第1に、産
学官連携とイノベーションとの関わりをシステム論の視点から考察する
ことである。NISの定義・構成要素・枠組みだけではなく,その形成過程
及び知識生産のモード論との関係を検討することによってはじめて,マク
ロ的視点とミクロ的視点の両面からアプローチしようとするものである.
第2に.産学問での知識フローの促進メカニズムを解明する試みとして,
産学間の双方向的連携活動を全般的に重視することである。つまり,単に
学から産への技術ライセンスだけではなく,産学間の研究協力から大学発
ベンチャーの創出に至るまでの多様な形態による総合的なメカニズムの
構築を重視しようとするものである。第3に,産学間での知識フローを現
す資料として.理論と実証の双方において関連するデータや情報を体系的
に利用することである。特に産学間での知識フローに関する日米の実状を
分析するにあたり、インプットとアウトプットの両面で国際通用する最新
の情報やデータを利用している。第4に,イノベーションとの関係につい
て正しい理解を深めるために,産学連携のプラス面だけではなく留意点も
考慮することである。第5に,産学間の三位一体メカニズムの推進にあた
って,TLOの役割を重視し,実証研究において日本の事例を取り上げたこ
とである。これは2つの要素を配慮したものである。1つはこれまでに日
本型TL0活動の実証分析は少なかったこと,もうユつは日本の産学官関係
が大きな変革期にあり,特にTLOの活動が注目に値するからである.
本書の結論は以下の4点に要約できる。第1に.知識社会におけるイノ
ベーション・システムを活性化する産学官3者間の関係を、マクロ的視点
とミクロ的視点の両面から考察した。従来,イノベーションと産学官連携
に関する研究には,システム論の立場に立った分析が少ないことだけでは
なく,マクロ的視点とミクロ的視点を融合した議論が欠けていることなど
の問題点が存在する。本論文は,できる限りこれらの問題点を克服するよ
うに努めている。つまり、NISの定義・枠組み・構成要素だけではなく,
その形成過程と分析アプローチにおいてこれまで提案された様々なモデ
ルを体系的に検討・分析し,それぞれの特徴と相違点を見出すことによっ
て,従来のモデルに残された問題点を明らかにした。第2に,MSと知識
生産のモード論との接点を見出すことによって,両者の補完関係を明らか
にした。また,知識社会における産学官の果たす役割が変容しつつあるこ
とを認識すると共に,現実への観察結果に基づきその留意点を提示した。
第3に,NISにおける大学と産業界との関係が産業社会との関わりによっ
てモード1あるいはモード2に変化し,特にモード2における産学間での
べ知識フローを促進するメカニズムは,@研究協力,A技術ライセンス,B
大学発ベンチャーの創出,の3本柱から成ることが,日米の実証分析から
得られた.また,産学間での知識フローの推進にあたりこの3本柱間の相
互補完関係を明らかにした。第4に、TLOが技術ライセンス活動の各段階
において,単に仲介機能のみならず,大学技術シーズの選別,及び産業界
ニーズのブラッシュアップという「ゲートキーパー機能jを積極的に果た
すことによって,産学間の双方向的な知識フローを促進しているという事
実を,日本を代表する6つの承認TLOの実地調査から発見した。従来,産
学間の知識フローはライセンシングのみによって行われると考えられて
きた。しかし,実地調査の結果,日本型TLOにおける技術ライセンスの流
れは,発明の開示・特許出願・マーケティング・ライセンシング・収益還
元など幾つかの段階に分けられ,しかも各段階の活動において産学間での双方向的な知識フローが存在することを明らかにした。すなわち,これらの各段階でライセンス候補企業から大学へ知識のフィードハックがTL0によってさらにブラッシュアップされ,次の技術開発へと反映されており,逆に,TLOを通じて技術評価やマーケティング等の形で,大学の知識が産業界に流れることによって新たな共同研究等に結びつくのであ乱このように,産学の間にTLOが介在することによって,知識のフローがより効果的かつ効率的に進められている。さらに,TL0が産学間の知識フローにおいて技術ライセンス機能だけではなく,産学リエゾン活動(共同・委託研究の斡旋や技術指導等)から大学発ベンチャーの創業支援に至るまでの機能を果たしはじめていることが日米の事例から明らかとなった。また,本論文はNISにおける産学官連携の役割について,理論考察から仮説の検証に基づく日米の実状分析までを通じて.以下の4点で途上国に対して政策含意を示唆することができる。第1に.大学は国の基礎研究の担い手としての本来の地位を確保できる前提のもとで,研究・教育の活性化のために産学連携を積極的に行うことである.たとえ.産学連携活動が活発になったとしても,日米の大学が自国の基礎研究の担い手であることは昔でも今日でも変わりない。一方で企業も基礎研究を大学に任せきっているわけではない。第2に,産学連携活動の展開には.産学間の双方向に多様化した形態の知識フローを促進するメカニズムが存在することである。つまり,日米の産学連携活動では,単に学から産への知識の一方的な流れに止まらず,産から学べの知識のフィードバックも極めて重要であり、また単に技術ライセンスというリニア・モデル的な方法だけではなく,産学間の研究協力から大学発ベンチャーの創出まで多様な形態による総合的なメカニズムが構築されている。第3に,産学連携からの利益は大学全体の研究費を賄うことは困難である。日米の一流大学でさえ,ライセンス収入や企業からの資金も大学の研究予算を稼ぎ出すことは不可能であり,大学の研究能力を高めるには,産学連携に過大な期待をかけるぺきではなく,政府からの支援が極めて重要である,第4に,産学連携はイノベーションを引き起こし経済発展に貢献するメリットがあるだけではなく,企業からの資金の影響で研究者が企業に有利な研究結果を発表する「金銭的利益相反(FCOI:Financial Conflict Of Interest)」や,企業からの依頼で研究成果の発表を遅延するr秘匿主義」.大学本来の役割であった教育・研究がおろそかになる「責務相反(COC:Conflict OfCommitment)」,TLOの行う顧客「選択」とライセンス・アソシエイトの「えこひいき」による利益相反(COI:Conflict Of Interest)といったマイナス面もあることを十分認識しておくことが必要である。本書は著者が日本で受けた大学院教育,及び中国の大学や政府機関で10年間技術移転実務の経験を基礎知識・見識として,日米のイノベーション・システムや産学官連携制度.特に仙台の東北大学をはじめ日本型TL0の取り組みを,第3者的な視点から行なった考察・研究を総括的に纏めたものである。イノベーションマネジメントを専攻している研究者、また産学官連携政策の立案者やその支援者、さらにTLOの技術移転活動の現場に従事する実務者の方々は、水害を活用していただければ、著者にとってこの上ない幸いである.



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