4−1.参加者の心構え

 ケースメソッド授業への参加者は、自分がケースの中に書かれている登場人物の立場であれば、どう判断し、実行に移していくのかを考えることが重要となる。
ケースメソッドではケースに書かれている経営問題をどのように解決していくか、その思考過程を見直し、他者の思考過程に触れ、学習し、自らの思考過程を再構築していくことを重視している。ケース討議で導き出される様々な答えを覚えることが目的ではない。経営問題を解決するにあたっては様々な障害が発生するが、その障害をどのように乗り越えていくのかという思考訓練を繰り返し行うことを目的としている。

 4−2.学習手順

 ケースメソッド授業への参加者は、その教育目的である自主的な判断能力を養うために、(1)個人での予習、(2)グループ討議、(3)クラス討議、という順序で学習を進めていくことになる。それぞれの学習において学習者には何が求められているのかを具体的にみていくこととしよう。

(1)個人での予習
 ケースメソッド授業に参加する場合には、まず個人で予習することが重要となる。予習では、ケースを読み、ケースに書かれている問題は何かを考え、その内容や原因を分析し、自分がケース上の登場人物の立場であったとするならばどのように判断を下すのか、自分の意見をまとめておくことが求められる。
教室の中で擬似的な経験による教育効果を得るためには、このような作業をまず個人で行うことが重要となる。個人だけで予習をしていると、ケースに書かれている内容だけではよりよい判断が下せないのではないかと不安になり、より多くの情報を手に入れたい欲求にかられることがあるが、実際の経営問題では十分な情報を入手してから意思決定をするわけではないことを理解しておきたい。

(2)グループ討議
 個人予習の後、クラス討議に入る前に参加者にはグループで討議を行う時間が与えられる。ここでは参加者をいくつかのグループに分けておき、個人予習の成果を持ちよって討議が行われる。この時間には基本的に講師は加わらない。
グループ討議の場で個人予習の成果を持ち寄り議論していくことで、個人予習時に形成された意見よりも充実した各自の意見を形成していくことができる。グループで参加者がお互いに発言しあうことで、個人予習で下した判断よりも様々な角度からケースを分析していくことが可能となる。グループ討議は、クラス討議の前に自分の下した判断を再検討できる場ともなるし、クラス討議の前に自分の意見を相手に納得してもらえるように表現する練習の場でもある。またここでケースに関連する情報や各自の経験等を交換しあうことにも価値がある。

(3)クラス討議
 参加者全員がクラスに集まり、講師がディスカッションリーダーとなってクラス討議が行われていく。クラス討議ではグループ討議よりも参加者が多様となるため、お互いに発言しあうことでグループ討議以上に様々な角度からの問題を考えていくことができる。クラスでは参加者が他の参加者の発言を聞き、自分の下した判断について再検討し、新たに構築された考えを発言していくことが繰り返されていく。クラス討議の場では参加者の主体的な発言が尊重され、参加者の主体的な学びの形成が目指される。
 
 4−3.講師の役割

 ケースメソッドではディスカッションリーダーである講師の役割が重要となる。以下、講師の役割について授業準備段階と授業進行時との役割に分けて考えていこう。

(1)授業準備
 まずは授業で扱うケースを選定する必要がある。ケースの選定はそのケースを通じて何を訓練すべきかその中心となるテーマのもとで行われる。扱うケースが決定したら、講師自身の予習として、ケースの論点は何か、問題点は何かを理解しながらケース分析を行っていく。またケースの内容について準備をするとともに、授業プロセスについての十分な準備をすることが求められる。これによって講師は授業進行時に必要なディスカッションリーダーとしての役割を演じることが可能となる。

(2)授業進行時
 授業進行時には講師はクラス討議のディスカッションリーダーとなる。その講師の役割としては以下の4点が求められる。 第1に、講師は参加者が自分で思索するよう促さねばならない。そのために講師は参加者の発言を支持的に受け止め、自由に発言できる場を参加者に提供するよう務めなければならない。参加者の発言で不適切といえるのは、いいかげんな準備にもとづいてなされる発言や十分に考えないでなされる発言だけである。これ以外の発言は、本人の積極的な推論に基づくものであれば最終的な結果に関わらず全て適切な分析であると考えられる。
 第2に、講師は多くの人々の参加を促すように努力しなければならない。ケースメソッド授業への参加者は、発言をすることで主体性が高まるという経験をし、それによって自分の発言に対して責任が生まれ、発言をしない参加者よりも積極的にその後の討議と分析を行うようになる。
 第3に、講師は中心となるテーマが訓練できるようにクラス討議を誘導することが求められる。しかし、その誘導はあくまでも学生の自主的討議のもとに行われる必要がある。討議が訓練すべきテーマから外れていたり、必要な議論が見過ごされそうになったりした場合には、参加者の自主的思索に訴えつつ、その訂正を求めなければならない。
 第4に、講師には参加者の自由な発言を聞きながら、彼らの考え方や表現の仕方の弱点を探り出すことも求められる。そして現実的で創造的な考え方、明確で効果的な表現方法ができるように手助けをしていくことが必要である。
我々はこれまで講義形式の授業を数多く受けてきたため、ケースメソッド授業においても講師に「結論」を求めたくなるであろう。しかし、ケースメソッド授業で重要となるのは自分の頭で考えていくその「意思決定過程」にある。だから講師が判断を述べたとしても、それは解答でもなければ最終的なものでもない。逆に講師の判断を聞くことによって参加者の中にはその判断に依存してしまい、自主的な判断能力を養うことができなくなる恐れがある。
 ここではケースメソッドについて理解することを目的とし、ケースメソッドを用いることで教室という場においても意思決定力を高める訓練を行うことが可能であることを述べてきた。ただし、意思決定力を高めるためには繰り返しの思考訓練が必要であること、また意思決定力が経営能力の中核をなしてはいるものの、専門知識の獲得も経営能力には同様に重要であることを強調しておきたい。
我々が直面する経営問題には唯一の正解というものはない。絶えずつきまとう不安を克服するために、そして様々な障害を乗り越えていくために、我々は高度な経営能力を備えていなければならないのである。

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